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広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(ナ)4号 判決 1955年11月21日

原告 平尾善一

被告 岡山県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告が提起した昭和三十年四月三十日執行の都窪郡庄村村長選挙における選挙の効力に関する訴願に対し被告が同年七月二十二日附でした裁決を取消す。右選挙における訴外平野茂武の当選が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする、」との判決を求め、請求の原因として、訴外平野茂武は昭和三十年四月二十五日都窪郡庄村村長選挙に村長候補者として推せん届出をされ、同月三十日右選挙の結果当選した。しかるに、同人は右届出前の同月二十三日同村の選挙人訴外平松慎一、平松広獅の両名から右選挙と同時に執行予定の同村村議会議員選挙の候補者として推せん届をされ、この届出書には右平野茂武の承諾書が添えられていた。もし添えてなかつたとすれば、一たん添附届出の後承諾書が右届出書からとり除かれたのであつて、推せん届書に候補者の承諾書が添附されていたことに変りはないからその届出は有効である。また仮りに右承諾書が当初から推せん届出書に添附されていなかつたとしても右平野茂武は村議会議員の立候補を承諾しており、立候補の告示について何等異議の申出をしていない。従て、右届出はいずれにしても有効であるからその後になされた前記村長候補者推せん届は地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律(昭和三十年法律第二号)第五条の重複立候補禁止規定に違反して無効である。そこで、原告は同年五月十三日庄村選挙管理委員会に対して、前述の村長選挙の効力に関する異議の申立をしたが棄却され、更に被告に対して訴願をしたが、同年七月二十二日棄却の裁決がありその裁決書が同月二十七日原告に送達されたので右裁決の取消と前記当選の無効の確認を求めるため本訴に及んだ、と述べ、

被告訴訟代理人は、答弁として主文と同旨の判決を求め、原告の主張事実中、訴外平野茂武が庄村村議会議員選挙における候補者となることを承諾したこと及びその推せん届出書に同人の承諾書が添附されていたことを否認し、その余を認める。即ち、(一)右推せん届出書には候補者平野茂武の承諾書の添附がなかつたから公職選挙法第八十六条第二項、同法施行令第八十八条第二項によつて無効である。しかるに、選挙長が誤つてこれを受附けて告示したのであるが、同年四月二十五日この点に気付いて却下した。(二)従て、右推せん届は無効であり、平野茂武の村議会議員の立候補はなかつたのであるから同人が前述の村長選挙に立候補しても重複立候補禁止の規定には何等違反しない、と述べた。

(証拠省略)

理由

訴外平野茂武が原告主張の如く庄村村長選挙に候補者として推せん届出をされ、右選挙に当選したこと及び同人が右推せん届出に先だち同村の選挙人訴外平松慎一、平松広輝の両名から原告主張の同村村議会議員選挙の候補者として推せん届出をされたことは当事者間に争がない。

ところが右村議会議員候補者推せん届出書に候補者たる平野の承諾書が添えられていたかどうかについて争があるからこの点について判断する。

成立に争のない甲第一号証の一乃至三の記載に証人平松慎一、平松広獅、三宅尚、犬飼博、平野茂武の証言を綜合すると、次の事実が認められこれを左右するに足る反証はない。

訴外平松慎一、平松広獅両名は下庄地区の情勢から訴外平野茂武の出馬を乞うのほかなきものとし、同人を庄村村議会の議員候補者に推せんしようと決し、昭和三十年四月二十二日右平野方に行き同人にその交渉をしたが同人から諾否の確答なく従て承諾書をも得られなかつた。しかし右両名は同村役場に赴き同村選挙管理委員会係書記訴外三宅尚から推せん届出書の様式を見せてもらい、翌二十三日右村役場で甲第一号証の一の推せん届書一枚を書き、午前十一時頃提出した。もつとも届出書の添附書類欄には様式通りに一、候補者の承諾書、一、選挙人名簿登録証明書、一、供託証明書、一、所属政党(政治団体)証明書と書いたが、これらの書類は一も添附しなかつた。このうち選挙人名簿登録証明書は村選挙管理委員会で作成し添附してくれる慣例となつていたが、候補者の承諾書のないことについては右届出書を受取つた犬飼書記は係書記の前記三宅尚に渡すためにただ預つた程度であるからこれに気付かず、係の三宅書記も当日施行の県会議員選挙事務に忙殺されていたので同夜役場に帰り其の内容を調べないで其のまま受理の手続をした後同役場前の掲示板に村議会議員候補者として平野茂武の氏名を掲示した。ところが、同月二十五日右推せん者両名から平野茂武名義で候補者辞退届出書が提出され、更に他の選挙人から右平野茂武を同村村長の候補者としての推せん届出があつたのでいずれもこれを受理した上直に県選挙管理委員会事務局倉敷支局に報告したところ同支局から重複立候補ではないかと注意がありその指示によつて平野に村長候補者として選挙運動を一時中止する様命じたところ、同人から村議会議員選挙の候補者承諾書は提出していないのに何故重複立候補となるかと電話で問合があつたので三宅書記は本件推せん届出書を調べた結果、始めて候補者の承諾書が添附されていないことがわかつた。なお右推せん者平松慎一等は本件推せん届出後も平野茂武にこの届出について何等報告もしないし、了解をも得なかつたのである。

従つて、原告主張の承諾書は最初から本件推せん届出書に添附されていないのであるから右承諾書の存在を前提とする原告の主張は理由なきものといわねばならぬ。

次に原告は候補者が承諾さえしておればたとえその承諾書がなくても、その候補者の推せん届出は有効であると主張するけれども、右届出書には候補者の承諾書を添附しなければならないことは公職選挙法施行令第八十八条第二項によつて明らかであつて、これは訓示規定と解すべきではない。けだし右承諾のあつたことを客観的に明確にしておくことは後日の紛争を避け選挙の運営を円滑且確実にするために必要であるからである。同法施行規則第十一条で第十八号様式によりその形式まで定めているのもこの趣旨にほかならない。従て、たとえ、推せんされるものが候補者となることを承諾してもその承諾書を添附しない限りその推せん届出書は右規定に違反した無効のものと解するのを相当とするから右主張も採用できない。

そうすると、本件推せん届出は法定の要件を欠ぐ無効なものといわなければならない。従て、右平野茂武が其の後に他の選挙人から村長候補者として推せん届出されても何等重複立候補とはならないし、其の当選も亦有効である。

よつて、右と同趣旨によつて原告の訴願を棄却した被告の裁決は相当であるから、原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 高橋雄一 三好昇)

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